ある朝、クリスティーナが作ってくれた朝食は、パンの上にトマトといういたってシンプルなもの。スペイン式だと彼女は言うのだけど、一緒にいた別のスペイン人に言わせると彼女のはちょっと変わっていて、通常はトマトをパンにすりつけるらしい。柔らかい食パンが相手だからそれができなかったのか、ざっくりと切られたトマトが食パンの上に堂々と乗せられていたそれは、トマトがパンから転がり落ちそうで、どこから食べていいのか少し迷った。でもとにかく美味しくて、一瞬のうちにぺろり。すごく幸せな気分になったのを覚えている。以来、自分でもクリスティーナの朝食を作るようになって、あのとき食べたものほど美味しくはないけど、それでも心も体も満足している。
パンの上にオリーブオイルを塗って、トマトを乗せて塩をふる。
そんな朝食を作ってくれたクリスティーナが今日ロンドンを去ってスペインに戻った。ロンドンに来て初めて友達になったのがクリスティーナで、たくさんのビールを飲んだのもクリスティーナとで、暴動があった夜も彼女と一緒にいて、ふたりで来るはずのないバスを待った。何でもかんでもwhy?って聞いてくるから、たまに面倒くさくなって。でも彼女のおかげでずいぶんと友達ができた。まだ知り合って間もないころ、パブでビールを飲んでいて先に帰ろうとした私に'so bad!'と彼女は不満げに言った。人にso badなんて言われたことなかったし、最初は戸惑ったしショックで。でも次第にむかついて、結局はI don't think so! と怒って帰ったのだけど、今はそのso badが彼女の甘え方ということがわかって、so badと言われると何だか笑えてくるようになった。あるとき、フランス男が彼女のお腹を見て、「やばいよ、出てきてるよ。気をつけなきゃ」って言ったら、彼女は「何で? これ私のだもん」ってお腹の肉をつかんだこともあったなー。
そんな彼女に、たくさんの思い出写真を切り貼りして他の友達のメッセージを寄せて彼女にプレゼントした。寂しがり屋な彼女がつらくなったときに見てハッピーな気持ちになって欲しいと思いながら切り貼りしたのだけど、彼女に渡したとき、切なさがピークに達して、私の行為は彼女との思い出を大切にしたい自分へのプレゼントだったような気がして、そんな友達を持てたことがうれしくなった。
ロンドンで友達になったヨーロピアンは、一定の期間が過ぎるとみんな自国に戻っていく。メールもfacebookもあるし、これからもつながっていると言えばそうなのだけど、それでも今日みたいに切なくなる。